いつの頃からだったか、瑞樹は周囲から孤立するようになっていた。元は仲の良かった友人たちも、瑞樹のことを疎外するようになった。
 理由は判らない。だが、いつの間にか周囲の人間にはそれが当たり前になり、気がつけば『瑞樹は独りでいるのが好きだから』と言われる様になった。
 その頃から瑞樹は、嫌がらせを受けるようになる。
始めは本当に些細なことだったので瑞樹も大して気にしなかったのだが、そんな態度が気に入らなかったのだろう、嫌がらせは日に日にエスカレートしていった。そして、周りの人間はそれを見て見ないフリをした。
 だが、そんなことより何よりも悲しかったのは、嫌がらせをしていたのが瑞樹と仲の良かった咲江達だと判った時だった。
 担任も、そのうち瑞樹の周囲の様子がおかしいと気づいたようで、咲江達を呼び出して話をした。その翌日からまた嫌がらせは酷くなった。
 そのうち学校から家に連絡が行ったらしく、家に帰るたび親に、学校ではどうだったかと聞かれるようになった。学校で起きたことなんて思い出したくもなくて、瑞樹は親にはいつも曖昧な返事を返した。そうすると、余計に根掘り葉掘り訊ねられるようになり、家で過ごす時間も苦痛になった。
 学校では、担任に見張られるようになった。毎日のように放課後に呼び出され、『今日は誰とも話さなかった』『もっと自分から解け込むようにしたらどうだ』と言われた。そして、何も親に話さない瑞樹に代わって、逐一親に一日の様子を報告した。
 時々瑞樹に話し掛けてくる人もいたが、瑞樹はその人達を信用することは出来なかった。その人達は咲江達と仲が良く、だからこそ、掛けてくる言葉の一つ一つが偽善にしか聞こえずにうんざりした。

 すべてが、嫌だった。
 死んで、すべてが終わるなら・・・・
 死ぬことですべてを陥れる事が出来るなら・・・・
 自殺することは決して怖くはなかった。
 だけど今は違う。死ぬことは怖いと思う。
 死んだらすべては終わりだ。あいつ等に復讐する事も出来ない。








 瑞樹が屋上から飛び降りた翌日以降、初めて咲江の前に瑞樹が現れたのは、今から一週間前の事だった。
 ベッドの中でうとうとしていると、不意にベッドが軋み眠りを妨げられた。不快気に眉をひそめ眼を開ける。そしてそこにあるはずの無い姿を見、反射的にベッドの中に潜り込んでいた。
―――今自分が見たのは何だったのか?
 早鐘を打つ心臓の辺りでこぶしを握り、必死に考えた。
 そんな思考を遮る様に、瑞樹は布団を剥ぎ取り嘲って言った。

『今晩は、咲。話がしたくて遊びに来たの』

 それ以来、瑞樹は毎晩寝る時間に現れるようになった。
 その日も咲江が寝ようとベッドに腰を下ろしたとたん、瑞樹は姿を現した。

「やっほ。今日も来ちゃった」

 そう言って笑う瑞樹の姿が、咲江には妙に憎らしく見えた。

「来ちゃった、じゃないよ!あんた何考えてんの?毎晩毎晩、いいかげんにしてよ!おかげであたし、夜もろくに寝れないんだよ!」

 ヒステッリク気味に叫ぶ咲江に対し、あくまでも瑞樹は笑って言った。

「やだなぁ。そんな怒らないでよ。二人きりで話すにはこの時間しかないんだもん、しょうがないじゃん。いいでしょ、友達なんだし」
「っ友達なんかじゃ―――」
「違うの?」
 そう訊ねる瑞樹の顔にはもう笑みは残っていなかった。その瞳には、剣呑の色。
「そう、違うんだ?本当に咲って嘘つきな上に偽善者だよね」
―――以前、瑞樹と咲江は二人で担任に呼び出されたことがあった。
『もっと仲良く出来ないのか』『二人が和解すれば円満解決』というような話を散々された。
 瑞樹の中にはすでに深い恨みがたまっていたし、咲江と仲良くなるなんて冗談じゃなかった。だが、咲江は瑞樹にこう言ってきたのだ。
『あたしたち友達なんだから、何かあったら何でも言ってきていいんだよ?』
 それを和解の言葉だと担任は受け取り、瑞樹達は無理やり握手をさせられようやく開放された。
―――ふざけるな!
 そう叫んでやりたかった。
 じゃあ、今までやられてきた数々の嫌がらせは何だったのか。咲江の中でそれは友達にやる当たり前のことだったのか。
―――偽善ぶった態度が許せなかった。

「わたし達は友達だって言ったのは、咲だよ?」
「違う!」
「違くないじゃん。あぁ、でもわたしまだトモダチらしいことしてないね」

 瑞樹はそばにあった花瓶を手に取ると、咲江の頭にその水をぶっ掛けてやった。咲江は何が起きたのか分からずにただこちらを見ている。

「‥‥前に、手が滑った振りして掛けられた事あったよね?咲の中では、友達にこういう事するんでしょ?」

 ダンッとわざと大きな音をたてて瑞樹は花瓶を元の位置に戻した。

「わたし、今日はもう消える」

 そう言い残し、瑞樹は瞬く間に姿を消した。
 残された咲江はただ虚ろな目で呟き続ける。

「もう、赦して。赦してよ‥‥」









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誰か「友達」の定義を川崎に教えてやってください。

この担任に久しぶりに再会し、「当時は楽しかった」といった担任に殴りかからなかった川崎を誰か褒めてやってください。
・・・・殴っとけば良かったなぁ。



2005.04.03

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