由香が移動教室から戻ると、机の中身が床に散乱していた。
―――まただ。
 いい加減うんざりしていた。
 朝学校に来るたび、移動教室から戻ってくるたびにこんな状況になっているのは、あまりいい気はしない。寧ろ不快だ。
 そして何よりも由香を不快にさせるのは、クラスメイト達の囁き合う声だった。

「ほら、まただよ」
「いなくなった瑞樹が復讐でもしてるんじゃないの?」
「やられても仕方無い事してたもんね」

 散乱している教科書やノートを拾い集め、ふといくつかのノートが破り取られているのに気がついた。今日の予習の分がキレイになくなっている。
 噂どおり、瑞樹がやっているのだろう。だとすればこれは復讐だろうか。自分たちは復讐されるほどの事をしたのだろうか。
 まだ由香がやられているのはましな方だというのは、由香自身でよく判っている。咲江は最近ノイローゼ気味だ。夜もろくに眠れなていない様だし、学校もよく休むようになっていた。
 自分達がやられているのは復讐か?
 違う、これは逆恨みだ。

「・・・・なんか、ムカツク」

 自分達がやったことは棚に上げ、由香は小さく毒づいた。

「由香、次は体育だよ」

 絵梨に言われて、由香はすぐ行くから先に行っててと返す。
 どうせまた戻ってきたときには散乱しているのだろうから、教科書を拾い集めるのはそこで諦めてジャージに着替えた。
 それから昇降口に向かうと、絵梨がそこでうろうろしていた。

「どうしたの?」

 由香が声を掛けると、絵梨は困ったような顔を向けて答えた。

「靴が・・・・」
「靴?無いの?」
「・・・・うん」

 きっと瑞樹の嫌がらせだ。
 やっていることが低レベルで、すごく苛々する。
 とりあえず、絵梨と一緒に靴を探し始めた。

「―――探し物はこれ?」

 不意に聞こえた聞き覚えのある声に、二人は声のした方を振り向く。
 そこでは瑞樹が楽しそうに笑いながら、靴を持って立っていた。

「はい、わたしが見つけといたよ」

 そう言って、持っていた靴を放り投げた。
 もう我慢の出来なくなった由香は、瑞樹を睨みつけたまま声を荒げた

「見つけといた、じゃないでしょ?瑞樹が勝手に持ち出して―――それにこれ、濡れてるじゃない!」
「うん、濡れてるね」
「なにあっさり認めるわけ?逆恨みもいい加減にして!」

 どんなに怒りを露に叫んでも、瑞樹はそれを軽く笑って受け流した。

「逆恨みって言われても、わたしが二人にやってる事ってあなた達にやられた事しかやってないよ?」

 そう言われてしまえば、返す言葉など無い。だけど・・・・

「だけど、咲江にやってるのは酷いんじゃ―――」

 続く言葉は、瑞樹の笑顔に遮られた。なぜかこれ以上逆らってはいけない気がする。

「わたし、咲江のこと嫌いだから」

 そう言う瑞樹の顔は笑っているけど、目は笑ってなくて。

「二人がわたしにやった事って、咲江に言われてでしょ」

 事実だけど、何か言い返してやりたくて由香が口を開いた瞬間、チャイムがなった。

「あ、もう授業始まるね。じゃあ」

 気がつくと、瑞樹の姿は掻き消えていた。
残された二人は数瞬立ち尽くす。

「・・・・靴、どうしよう」
「・・・・私、テニスシューズあるからそれ貸すよ」

 そこで立ち尽くしていてもどうしようもないので、二人は校庭に向かうことにした。








 学校帰り、由香と絵梨は咲江の家を訪ねた。
 数日ぶりに見た咲江は、どこか前よりやつれて見えた。

「毎日、寝るタイミングを見計らって瑞樹が現れるから、殆ど寝られないんだよね」

 やつれた理由を訊ねたら、忌々しそうに咲江は言った。
 瑞樹は現れるたびに何かやらかしていくという。

「霊能者とか呼んだ方がいいのかな。このままじゃ、瑞樹の霊に呪い殺される・・・・」
「・・・・そうしたほうが、いいかも」

 三人の間に、沈黙が流れる。そうでもしないと本当に、瑞樹の霊に呪い殺される気がした。

「―――何の相談をしているの?」

 その沈黙を破ったのは、瑞樹の怒りに満ちた声だった。

「何の相談をしているの?」
「瑞樹!」

 ここ数日というもの、何度も突然現れたり消えたりする瑞樹を見ているが、それでも慣れることは決してない。三人は驚愕の声を上げた。

「あんたたち、何でわたしがここにいると思ってるの?」
「逆恨みをして―――」
「違うでしょ。死んでも死にきれない位、あんた達の事恨んでいたからでしょ?身に覚えないの?」

 瑞樹は三人に詰め寄った。

「―――御免なさい・・・・」

 咲江が、涙を流しながら言う。何日も前から精神的に張り詰めていた咲江は、瑞樹を見た時からすでに怯えていた。

「御免なさい・・・・赦して・・・・」
「何に対して謝ってるの?」

 そう言い放つ瑞樹の声は、どこまでも冷たい。

「・・・・ごめ・・・・赦し・・・・・・」
「泣いて謝れば赦されると思ってるの?ふざけないで」

 瑞樹は咲江の胸倉を掴み引き寄せると、その体勢のまま由香と絵梨を一瞥した。

「謝られて赦してやるほど、わたしは優しくないし心も広くない。ねえ、だから忘れないで。わたしがどれだけあなた達を恨んでいるか」

それから、瑞樹は声を上げて笑った。
 その姿はすぐに異世界へと消えてしまったけど、笑い声だけはいつまでも残り続けた。









TEXT TOP  NEXT→







――――――――――――――――――――
分岐点。
部誌に載せるのはまずいと判断して止めた方の結末は後日UP予定。



2005.04.03

SEO [PR]  紅葉めぐり 転職支援 わけあり商品 無料レンタルサーバー ブログ SEO