流れていく時間の中に波や刺激を求めているわけじゃない
ただ一緒にいられるだけでいい
寄り添えるだけでいい


何もない日常がたまらなく愛しい
そう思えることがこの上ない幸せなのだと



最近ようやく分かりかけてきた





* おめでとうのコトバよりも 〜 誕生日 〜 *





「ねぇねぇ、今日はお仕事?」
「ない」
「そっか」
「・・・なに?」
「なんでもな〜い」



聞いといてなんだよ、とでも言いたげな表情を見て、にっこりと微笑んで。
ちょっと驚いたようにしていたけど、それも一瞬のこと。
すぐにテレビに向き直り、ソファに背を深く預けたその態度に、ちょっとカチンと来たけど今日だけは許してあげる。



・・・なんてったって、今日は。



「ねえ」
「だから、なに?」



「ありがとう」



そっと後ろから抱き締めて、憎らしいほど癖のないさらっさらの髪に頬を寄せて呟く。



「・・・『ありがとう』?」
「ん?」
「『おめでとう』じゃないの?」
「うん、『おめでとう』じゃないの!」
「なんで?」



ソファ越しの会話。
背を向けられているから、今どんな表情をしているのかは分からないけど。



「今から二十年前に生まれてなければ、今こうやって此処にいなかったでしょう。
 だから、まずひとつはキミの両親への感謝。
 それと、此処に・・・。あたしの傍にいてくれてありがとうっていうキミへの感謝なの。
 おめでとうだなんて、他の人から言われたり、他の人に言ったりする台詞で片付けたくないの。
 おめでとう、よりもありがとう。その方がずっと、ずーっと特別なんだよ」



「・・・」



少し間を置いて振り返ったキミの顔には柔らかい色があった。
大きな手で頬を包み込まれて、唇を塞がれる。


深くないし、啄ばみもしない、軽く重ねるだけのキスなのに。
とても優しくて胸がいっぱいになる。
伝わってくる温かい気持ち。
なんでだろう、喉の奥がつんとして。



「なんで泣くの」
「・・・分からない」
「よかった」
「・・・え?」
「・・・キミでよかった」



宥めるように髪を撫でて、睫毛の先にたまった涙を指先で拭って。
ぽつりと言い、真っ直ぐにあたしを見て微笑むから。



「・・・ひどい」
「なんで?」
「不意打ちだよ、その笑顔。・・・・ますますキミのこと、好きになっちゃうよ」
「・・・」
「嫌いになれなくなるよ。ずっと離れられなくなるよ」
「・・・いんじゃない?ずっといても」



もう何も言えなくて、ただただキミを抱き締めた。
返してくれる腕の強さも温もりも匂いも、見慣れたこの部屋で、全部あたしが独り占めする。



「・・・あのね」
「ん」
「好きだよ」
「・・・うん」
「…大好きだよ?」



この先も、ずっとずっと。 この人の傍にいられたらいいな、と思いながら、あたしはそっと目を閉じた。
顎を捉えた指先に、降ってくる予感を覚えて。





流れていく時間の中にある波や刺激よりも
ただ一緒にいられるだけで
寄り添えるだけで


何もない日常がたまらなく愛しい
それがこんなに幸せなコトだって


最近ようやく分かったの





END





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