「少し口を開いて」


右手で彼女の顎を固定すると


ゆっくりと紅をひいた。





* 駆け引きはあなたと 〜 視線 〜 *





「…リディア」

「なに?」



宙を泳いでいた彼女の金緑の瞳が僕を映す。
ぱちんと口紅のフタを閉めて、
僅かに熱を帯びた彼女の頬をなでる。


「チークが、まだだよ」



彼女は少し機嫌を損ねたらしく
わかっているわ、と呟いた。



思わず笑みが浮かぶ。
勿体無い。


この瞬間をガラスケースに入れて飾っておきたいと思う。
このまま君ごと鳥籠の中に閉じ込めてしまえたら。



「・・・上手ね、不自然なほどに」


少し棘を感じる言葉。
彼女なりの精一杯の反抗といった所か。


「僕に不可能はないしね。それに、一度やってみたかったんだ」

「そう、てっきり―――」

「?」

「・・・自分でも、化粧しているのかと」




からかわれた意趣返しか?




口づけようとすると


ひいたばかりの口紅がつくわよ、と制された。





END





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