友達と他愛のないお話ができたり
おいしいご飯や、甘〜いお菓子を食べたり
退屈な授業も一通りこなして
不満に思う些細なことは、一晩眠れば忘れられる


大好きなパパが元気で
私ももちろん元気で


素敵なミステリィだっていっぱいあるのに



それでも未だ望むことがあるなんて言ったら、それは我が儘かなあ?





* wish 〜 休日 〜 *





「こんにちは〜!お邪魔しま〜す!」



大きくて立派なお屋敷。
見慣れたドア。
何処よりも落ち着いて、素敵ミステリィの宝庫!
憂鬱な試験週間が終わって、もうすぐ一週間。
返された結果を放り出して、休日の朝から出勤なんて優秀な助手でなくっちゃできないよね?!


「いらっしゃい、まゆらサン」


迎えてくれる背の高い優しいお兄サン。
この大きなお屋敷のお掃除から食事の支度まで、全てをこなしてしまうすごい人。





そして。



「…………今日もいない?」

「ええ、調査の方でお出掛けなさっているんです」


私のあからさまに不機嫌な声に闇野さんは困り顔。


「何処にですか?」


更に困らせるって分かっているんだけど、どうしても抑えられなかった。


わかってるんだ。
ごめんね、悪いのは闇野さんじゃない。


「ええっと、レイヤさんのところに……」

「今日も、ですか」

「……はい」



悪いのはレイヤちゃんでもない。


「お仕事なんです、ロキ様。レイヤさんのご友人が、今回の依頼人でして、それで色々……」


ロキくんが、悪いんでもない。
でも、ごめんねごめんね。



自分でも分からない位に、ある感情が心の中に渦巻いている。
誰が悪いわけでもないんだけど、それでも誰かに当たらずにいられない。


出された紅茶にお砂糖をいっぱいいれて、ミルクを並々と注いで。
ティースプーンで感情に任せてかちゃかちゃと回していたら、アンティークのカップから少し零れた。
ミルクの甘い香りだけが、部屋の中にふわふわと漂った。



「闇野さん、私って我が儘ですか?」


ふと思いついて訊いてみた。
突然の質問に闇野さんはちょっと驚いた顔をしたあとに、ふんわりと笑った。
私は答えを待ちながら、甘い紅茶に口をつけた。


「まゆらさんはロキ様を怒っておいでですか?」

「いいえ、怒ってないです。……というより」


何だろう?
自分で訊いておいて、答えておいて、分からないなんて。
でも、闇野さんは待ってくれてる。
私にとっての答えが出るのを。


「…私ずるいなって。勝手に望んで、勝手に落ち込んで。言いたくないのに我が儘なんて」


言ってて哀しくなってくる。
あぁ〜もう、自己嫌悪。
独りよがりで駄々をこねて、本当に我が儘だ。


静かに私の話を訊いていた闇野さんは、私を一瞥した後、いつものロキ君の席を見た。


「いつかそう、伝えてあげて下さい。ロキ様にはその言葉が必要になるときが来るだろうから」


時折見せる深い色を湛えた、瞳。
すぐにいつもの優しい表情に変わって、続けた。


「お願いしますね」


そう言って、食事の支度があるからと席を立って。


「あ、それと今日はお昼には戻ると仰ってましたよ」


悪戯っぽい笑みを見せると、キッチンに向かってしまった。
私は一人残されて、温くなった紅茶にまた口をつけた。


「もう何日も顔見てないぞロキくーん……」


恨みがましく呟いて。
戻ってこない彼に対し、不満の文句を考え並べて。
きっと一つも言えないなんてことは百も承知。
少し位困らせてみたって構わないでしょ?
私のこの気持ちをいつもみたいに軽く推理しちゃってよ。


少しだけ楽になった気持ちを、開け放たれた窓からの風が優しく追い立てた。
今日こそ勝ってみせるんだから。



彼女の小さな宣戦布告も、風の中へと消えた。 





END





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