『ねぇ、もしもの話だよ?もし朝起きて蝶になっていたらどうする〜?』





* アイユエニ 〜 距離 〜 *





『何ソレ?』


想像通りの呆れ顔。
いいのデス。
今日は負けないんだからっ!


『あのね〜。学校で習ったの。胡蝶の夢っていう故事。
 荘子って人が夢で蝶になって、楽しんでるうちに現実と夢がね、
 区別がつかなくなっちゃた〜っていうお話なの』


今日習ったばかりの新しい話題だし、ロキ君の答えが聞きたくって。
言葉が口から次々に出てきた。



『で?それでさっきの質問なわけ?』

『そう!ロキくんならどうする?』


私を一瞥するとロキ君はまた手元にある本に視線を戻した。
やっぱり答えてくれないのかなぁ〜?



・・・



『―――飛んでいくかな』

『えっ、なぁに?』

『蝶になったら』

『あっ、その話。…おんなじだね、私とv』


そう言うと、今度は視線を天井に移した。


『じゃあ、捕まえて置かないとね』


手を伸ばし、空気を掴み、ロキ君は言った。
意味が分からなかったから、素直に聴くと、ロキ君は言葉を続けた。


『網を持ってでも追いかけてあげる。ずっと』


そう言ってから私を見て、不敵に笑った。


『なぁに?標本とかにするの?』

『そうだね』


たまに思うケド、ロキ君の瞳は深すぎて怖いね。


『きっと痛いだろうなぁ。そんなの嫌だよ〜』

『だって、ずっと見ていられるデショ?』


本来は不釣合いな立派な椅子に座って、ご機嫌そうに言った。



『ロキ君は、そうかもしれないケド…』




―――私は死んじゃってるんだよ、ロキ君?




この言葉は口から出てこなかった。
だって、ロキ君はそんなこと考えてない。
関係ないんだろうね、きっと。


愛しいものを、手の中に握り締めておきたいんでしょう?
何処にも飛んでいかないように。
自由に飛びまわれないように。




『捕まえてアゲル。何処にも行かないように』





END





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