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―――ほんの少しだけでも素直になれたのならば... 扉を開けば、案の定そこには執務を途中で放り出し逃走した上官の姿があった。 彼の事だから、仮眠室辺りでサボっているのだろうと予想して来てみたのだが。 しかし、そこが仮眠室にも関わらず彼が寝ていた様子はない。ベッドの縁に腰掛け、待ち構えていたように此方を見て微笑んでいた。 「ああ、思っていたよりも来るのが早かったね」 「――何のおつもりです?」 「何がだい?」 此方が言いたい事を分かっているのに、のらりくらりと答える上官。 彼の此の食えない笑みは、態となのかそれともこの状況を楽しんでいるのか。 おそらく両方なのだろうが。 「休憩を取られる前に、朝渡した書類を総て終わらせるよう申し上げたはずですが?」 「なに、あらかた片付いているし、私にかかれば直ぐに終わるさ」 「なら、今すぐに残りの書類に取りかかって戴きたいものです」 心底そう思い言えば、彼は軽く声を上げ笑うだけで執務室に向かう素振りすら見せない。 此処でこうして自分を待っていた目的を果たすまでは仕事に戻るつもりは無いのだろうが。 「それで、何の用です?」 彼に早く仕事に戻ってもらうため、仕方なく溜め息混じりに問えば、返ってきたのは求めていたそれとは異なったものだった。 「ところで、私を探していたのは君だけかい?」 ……どうして、この方はこう… 此方の問いに答えないのは十中八九態とで。 「…ハボック少尉もまだ大佐を探しているかと」 答えてやれば、満足そうに笑い頷く。 「ふむ。ハボック…か」 「……それで、何の用ですか?」 何か含むように言う彼に僅かに…僅かに苛立ちを感じ、先程と同じ問いを繰り返す。 彼はすまないねと軽く謝ってみせ、 「いや、君も少しは素直になってみてはどうかと進言をね」 「私は素直ですよ。大佐に少しでも早く執務に戻って戴くために実力行使に出てしまいそうになる位には」 「それは……」 思わず絶句した彼に満足する。 彼が此方の言う『実力行使』をどう取ったのか少々気になるところだが。 「用事はそれだけですか?でしたら、直ぐ執務室にお戻り下さい」 「ふむ。では、痛い思いをする前に戻ろうとするか」 そう言って立ち上がり、先に仮眠室を出ようとしていた彼は扉に手をかけたところで一度立ち止まる。そして振り向いた彼の表情は、先程までの面白がるようなものとは異なり僅かに優しさを滲ましたもので。 「…あの男は、鈍いからね。ほんの少しだけでも素直になってみたらどうだい?」 その口から出たのは先程と同じ台詞。 此方が反応を返す前に…そもそも彼は何の反応も期待していないのだろうが…執務室を出ていく彼の背中を見送った。 「素直…」 口から出たのは意識したものでは無くて。 彼が出ていった戸を見つめていると、不意にそれが外から開かれる。 入って来たのは、日に灼けて僅かに色の抜けた金髪と空色の瞳を持つ同志。 「…あ、中尉。大佐は見つかりました?」 「ええ、先に執務室に戻っているわ」 そう答え微かに笑みを向ければ、日溜まりのような優しい微笑みを返される。 ああ。本当に。 大佐の言うように、もっと素直になれたならば。 ……どんなに良かったのだろうか。 END NOVEL TOP ――――――――――――――――――― 日記から移動。 ハボ←アイ+ロイ 2005.06.19 |
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