―――月の紅い夜は、人が死ぬと云う。

ただ空気中を舞う砂による光の拡散に過ぎないその現象を、しかしそれを知らぬ人々は、血を吸ったが如く紅い月を畏れ、迷信を信じた。
そして、幼い少女はその迷信が真実である事を知る。


それは、紅い満月の夜だった。
命の飛沫が鮮やかに紅くその身と少女を染め上げたのは、ほんの数刻前。
徐々に冷たくなっていく母の躰を小さいまでの手で抱きしめ、少女は声を出さず静かに涙を流した。


見える先には紅い月。
母の血を吸い、紅く染まった満月。


「――私がお前を生かしておく必要など無いだろう?」

そう言う父の顔からは何の感情も読み取れなかったが、涙を拭うその指先は優しく感じられた。

何が現実なのか、わからない。
何を信じて良いのかが、わからない。


母の死を。
父の言葉を。
頬を伝う涙を。
優しい指先を。

総てを見下ろしていた、紅い月を。



―――すべての始まりは、この時だったのか。

或いはもっと以前からだったのか。




そして十数年の後、ある吟遊詩人の少女の噂が人々の間を伝っていた。
その少女は神の唄声と引き換えに、すべての感情を失ってしまったのだと云う。


人々の血を吸い紅く染まった月は今もなお、その少女を時折見下ろしている。



それは、彼が少女と出会う以前の語られる事の無い過去の逸話―――



偶然の確率




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「歌姫伝」改めて「Lament」のプロローグです。
中学の時に作った話なので、どうなっていくのか自分でも不安;
とにかく、完結させるのが目標で!


2005.06.19

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